法律家は、何故コンサバティブな思考しかできないのか

法律家 橋本雄太郎

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(この記事は2018年7月発行「EMSマガジン第2号」の一部内容です)

法律家 橋本雄太郎からのメッセージ

 

「法律家は、何故コンサバティブな思考しかできないのか?」

 
法律家は、何故コンサバティブな思考しかできないのか?

「法律家は悪しき隣人」という有名な格言があります。
病院前救護・救急医療の世界の議論の場において、法律家の発言は、よく言えば慎重派、実際のところは抵抗勢力と看做される存在なのではないでしょうか。その理由を考えてみます。


法律家の考えの根拠になるものは、現在実効的に国内に制定されている法律、いわゆる実定法です。より具体的には、各法律の一つ一つの条文です。その条文を解釈して、実際に起きた紛争事案に当該条文を当てはめて紛争を解決するための結論を導き出す論理構成を考えるのが法律家の役割であり、法律学ということになります。

そして、そうした作業を繰り返すうちに、将来起こり得る紛争事案に関しても、紛争の法的判断予測を立てることも可能になります。そして、この予測を立てるに当たって、法律家は、当該紛争事案の解決案に関して、納得できない人、不満を持つ人ができる限り出ないような考え方及び結論を選択し、導くように努めます。石橋をたたいて渡るのです。


裁判の進め方において、この誰もが納得できるために、市民の考え方に基づいて考えよう、その方が市民の納得を得やすいと考えるのが陪審制度です。我が国は、一定の重罪に関しては裁判員制度を採用し、民事・家事事件に関して調停制度を設けているのも、こうした考え方を考慮したものです。しかし、一般の民事事件、刑事事件においては、専門職業人である裁判官によって判断されることになっており、この方が妥当・的確な判断が出る、国民もその方が納得できる、と考えて司法制度を作っているのです。
 

病院前救護や救急医療の現場における法的紛争事案について考えてみる

そこで、病院前救護や救急医療の現場における法的紛争事案について考えてみましょう。例えば、一般的に(CPA傷病者を含めて)、救急現場において、本人が生前書いたと言われるDNARの書面があり、その場に居合わせた家族らしき人たちがその書面を尊重して何もしないで下さい、と言われたときに、臨場救急隊員はどういう対応をすればよいのでしょうか?

恐らく法律家の発想は、その書面が本当に真意に基づいて書かれたものなのか、その書かれた時の意思が存続しているのか、親等の近い家族が他にいて反対しないか等を考えて、少なくともBLSを実施しながら医療機関に搬送しなさい、それが消防法第2条第9項の趣旨ですよ、という結論に達すると思います。このような場合、9割以上の事案において、法律家が心配しているような事態は起きないと考えられます。

しかし、その可能性がないと言い得ない状況においては、慎重な判断を下すことになります。いわゆる、保守的な、コンサバティブな判断と非難されるところです。「結果オーライ」という考え方は取りません。

公の会議の場においても、MC協議会の場合においても、医療側の考え方、発せられる言葉は、どちらかというと性善説にたって、多くの場合問題なければ、この考え方の方が合理的なので、この方向で行きましょう、というものが多いと思いますし、筆者自身、そういう場に居合わせた経験から、そういう傾向があると思います。

しかし、有識者として法律家が発言すると、どちらかというと性悪説に立って、しかし、それに反する可能性が少しでも残っていれば紛争に発展することになりかねず、現場救急隊員が無用な紛争に巻き込まれる虞があるので、慎重に考えましょう、ということになります。そして、行政の側も、これに近い考え方を取るので、慎重な答えになってしまう、というのが実際です。

したがって、医療関係者からすると、法律家は、悪しき隣人であり、邪魔な、不愉快な存在ということになります。しかし、「イケイケドンドン」ではなく、市民のためにも、現場救急隊員が無用な紛争から免れることができるためにも、こうした耳障りな、考え方を主張しておくことも大事ではないかと考えています。
そして、最後は「立法」により解決されるのが、最も望ましいプロセスと考えています。

プレホス寺子屋「橋本塾」

 - 本塾の意味、意義、役割 -

 日常の救急現場活動において感じる疑問や不安を、法的視点を踏まえた上で、塾生の皆さんと忌憚のない意見交換をしながら「考える」ことで、疑問や不安をできる限り解消し、的確な対応を実施することで、安心安全な職場環境を自律的に確立していくことが可能になります。この安心安全な活動を確保することが、「塾」の目的です。

 「塾」は、教えるものと学ぶ者が互いに切磋琢磨し、議論し合うことで理解を深める場所です。新たな気づき、発見もあります。この目的から、「新しい生活様式」にそった「WEB方式」で、居ながらにして学べる、身近な存在として、場を提供することにしました。


救急活動の紛争予防オンラインマガジン

「考える」救急隊員になってほしい


 「考える」救急隊員になって欲しい。そんな思いの詰まった法律家、橋本雄太郎のオンラインサイト「EMSマガジン」。救急活動をめぐる法律問題の第一人者だからこそ、救急隊員にとって不可欠な、直面する法律問題を具体的に指南できる。『EMSマガジンを読んでいれば・・・』という後悔をなくして欲しい。EMSマガジンは、救急現場で紛争に巻き込まれたときに、「勝つ」ためにしておくこと。そもそも紛争を起こさせないために、どうすればよいのか。救急活動の不安解消させる「考える救急隊員」を育てるマガジンです。
※EMSマガジンは2021年4月にプレホス寺子屋『橋本塾』オンラインに統合しました。

プロフィール

 法律家
 橋本雄太郎
 [ハシモト ユウタロウ]

~コメント~
病院前救護及び救急医療をめぐる法律問題、災害時の法律問題を主たる研究対象にしています。杏林大学教授として刑事法・医事法を講義してきましたが、約25年前から、消防大学校、救急振興財団東京研修所・九州研修所、各消防本部消防学校等で講義を行い、各地のメデカルコントロール協議会や消防本部の主催する研修会、関連学会等で講演等を頻繁に実施しています。国や自治体の設置する委員会委員も数多く拝命してきました。
主著として『病院前救護をめぐる法律問題』、『救急活動をめぐる喫緊の法律問題』、主編著として『救急活動の法律相談』等があります。


(学歴)

慶應義塾大学法学部法律学科卒業
慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学

(職歴)

杏林大学社会科学部助手、専任講師、助教授を経て教授
大学院国際協力研究科教授を兼ねる
ロンドン大学高等法律学研究所訪問研究員(1997~1998年) 
現在  香川大学客員教授

(学会役員歴)

オーストラリア学会副代表理事
日本航空医療学会評議員
日本病院前救急診療医学会理事

(社会における主な活動歴)

東京消防庁消防行政特別協力賞(平成11年)
総務省消防庁救急業務あり方に関する検討会委員
東京都メディカルコントロール協議会委員
東京消防庁救急懇話会委員
横浜市救急業務委員
さいたま中央地域医療事故対策委員
山形市救急業務あり方検討会委員
茨城県北部地域医療顧問
東京都大学サッカー連盟評議会議長・東京都サッカー協会理事


単著
『病院前救護をめぐる法律問題』(東京法令出版、平成18年)
『テキスト 救急活動をめぐる法律問題』(荘道社、平成20年)  
『救急活動をめぐる喫緊の法律問題』(東京法令出版、平成26年)
編著
『救急活動の法律相談』(新日本法規出版、平成22年)
『刑事訴訟法入門』(八千代出版、平成23年)
DVD
『救急隊員に必要な法律基礎知識』 (新日本法規出版)
『救急活動の法律相談シリーズ 全6巻』 (新日本法規出版)



シリーズ紹介

法律家 橋本雄太郎からのメッセージ

法律家 橋本雄太郎

2020年までに発行された法律家橋本雄太郎のメールマガジン「EMSマガジン」内のメッセージをまとめいます